【STORY】見届人モノポリタン【寓話】

名前:モノポリタン

年齢:26

職業:アルバイト(そこまで生活には困ってないよ)

趣味:カードゲーム(昔の話)、スポーツ観戦、争いを遠くから眺めること

 

どこか他人事で、無関心で、悪趣味な成人男性。

 

 

EPISODE1


 下らないことで悩んでいる人間を見るとイライラするんだよね。

でも俺はそういう人間共をたくさんTL(監視対象)に置いてる。

イライラはするけど、そういう人間の

【アタシはこれだけ努力したから、報われてしかるべきだ!】

【アタシより楽していい思いをしてるアイツが許せない!】

っていう傲慢な感情を見ると

(あーこいつバカだから、一生そうやって生きてくんだな)

って思えて気味が良いんだ。


 

EPISODE2


 サッカーとバスケ、あと音ゲーかな。よく観戦するんだけど、実際に遊ぶことはほとんどない。選手達を見てスゲェと思うことは滅多にないし、逆に上手く行ってない奴を見る方が興奮する。スポーツ新聞は『この野球選手は無能だ』とか『この芸能人はクズだ』とか『総理は退陣すべきだ』とかいう、いつもの決め台詞を摂取するために取ってる。

これを言うと友達もバイト仲間も変な顔をするけど、人生において精神衛生が重要なことは皆分かってるみたいなんだ。だけど精神衛生っていうのは常に他人と比べて良いか悪いかでしか判別できないから、不幸な他人、見下せる他人が必要だってことはイマイチ理解してくれない。


 

EPISODE3


  最近新しい観戦趣味が増えた。年に2回か3回ほどあるオンラインの音楽祭。

その音楽祭は賞レース形式で、特定のルールに則った音楽で覇を競うらしい。

俺はその特定のルールに則った?機械的な音楽を別の所で聴いたんだが、何か理屈っぽくて、声が気持ち悪くて途中で視聴を切ってしまった。

(こんな気持ち悪い音楽が開催期間中には何百何千曲と投稿されるなんて悍ましいな)

なんて思ったりもしたが、こんな低レベルな気持ち悪い音楽をマジになって作って、賞レースの順位で一喜一憂してる奴等がいるという知識は俺の心を豊かにしたんだ。


 

EPISODE4


 大本営発表では4日間の音楽祭は「大成功」を収めたそうだが、各地では怨嗟の声が響き渡っていた(俺はとても気分が良かった)。どうやら「特定のルールに則った音楽」ではあるものの、ルール違反スレスレの【ネタ曲】というものが多数結果を残したらしい。

無論、そういう環境の変化を歓迎する声も多くあった。ただ、一部の気持ち悪い音楽を作る馬鹿共や、一部の気持ち悪い音楽を愛好する自称玄人リスナー気取りからは『もっと真面目な音楽が報われるべき』という気持ちが漏れ出ており、俺は非常に(こいつらは救い難い馬鹿なんだな)と思ったし、気分が良かったんだ。


 

EPISODE5


この数日間、興味本位でその気持ち悪い音楽の歴史を辿っていた(無論、曲自体を聴くことはない。気持ち悪いので)が、俺が出せる結論は「真面目に曲で勝負してる奴なんか最初からいない」しかなかった。

まず、今回の音楽祭で覇権を握ったのが【ネタ曲】。そもそもこの戦術の歴史は古い、ってか、その気持ち悪い音楽の歴史は【ネタ曲】から始まったと言っても過言ではない(真面目で気持ち悪いオシャレな音楽がここ数年流行ってた結果、【ネタ曲】のポテンシャルが忘れられてたっぽい)そうで。

黎明期の、まだ件の音楽祭すらなかった環境ではもっと卑猥な【ネタ曲】が話題性で覇権を握ってたけど、結局有名になった音楽家は大体オシャレ志向で、後続達は皆それを真似ていったせいか【ネタ曲】は次第に減っていったらしい。

ただ普通に「3~4日しかない賞レース」「一気に千曲くらい投稿される」って考えたら「サムネと曲名でライバルと差別化できる【ネタ曲】が強くなる」ってなるのは当然だし、逆になんでお前ら今まで気づかなかったんだよ、とすら思える。何真面目に埋もれる曲作ってるのあいつら?

また次の賞レースで【ネタ曲】が何百曲も量産されて、そいつら全員埋もれたら面白いだろうな。この手の賞レースはカードゲームの環境と違って「需要と供給」で成り立ってるから「過剰な供給」は共倒れにしかならない。まあネタ曲需要が自称玄人リスナーの一万倍くらいになったら話は別だが。【ネタ曲】で上位取っても企業案件貰えるのかな?


 

EPISODE6


そうそう、あいつらの思ってる「真面目な曲」っていうのも結局は有名曲のコピーみたいなモンらしいんだよね。で、有名になった先人も結局のところ「他の元々有名だった人とコラボしてジブンも有名になった」とか「元々違う所で有名だったけど、そっち乗り換えたら更に有名になった」って経歴ばっかり。「真面目」と書いて「コネ」。要は「人のつながり」。常に当時の先人がAuthorityで新人の生殺与奪を握ってる。流行の舵を握るべきリスナーもAuthorityからの情報に頼ってるし、そもそもリスナーの良曲基準もAuthorityが作った曲に依存してるから有名曲のコピーが氾濫する。気持ち悪い、中身のない、金の臭いしかしない曲の劣化コピー。あいつらは不平不満が言えるような偉い曲なんか作ってないんだよどうせ。ただ、

「アタシは真面目にやってる、お前らとは違う」

と思い込みたいだけ。

実体のない流行を維持するための歯車は黙って回り続ければいい。


 

EPISODE7


承認欲求を追いかけるあまり、目的も手段も綯い交ぜになった人間の醜さを見ると、どうも愛おしくなっていく。温故知新、歴史を辿って分かったのは「真面目に曲で勝負してる奴なんか最初からいない」、そして「音楽一本でやるのは無理だと分かってるからこそ、まずは音楽以外で有名になる」のが昨今のトレンドだってこと。

有名になる方法は何でもいい。例えば漫才で日本一になったり、ボディビルダーになったり、Vtuberになったり、俺みたいに他人の不幸を馬鹿にして共感を集めるのもいいかもしれん。

「音楽祭」と銘打ってるのに、皆寄ってたかって音楽とは関係のないことで個性をアピールしている。皆どこかでAuthorityが気持ち悪い音楽の流行を支配していることに気付いてる。曲を聴いて下さるリスナーには感謝のポーズを取りながらも、評価自体は信用してないから、どれだけリスナーを集めても本質的に承認欲求が満たされることはない。いつの間にか金を集めること、金で人気を買うこと、己の肉体を見せつけることそれ自体の方が重要になっていく。それでいて音楽を手放せない愚かさが心底愛おしい。


 

EPISODE8


 もしかしたら、俺が知らないだけで本当に音楽の力を純粋に信じて、音楽に打ち込んでる、真面目にやってる奴もいるかもしれない。真面目に、ただ埋もれる曲を作ってる奴等。俺はそういう奴等を見て(嘲笑する価値があるなあ)と思いながら日々を過ごしていくだろう。

ただ、ね。もし、このクソみてえな流行界隈で、「何年も」音楽の力を信じて、報われることのない創作をし「続けてる」奴がいたとしたら。いや、どうせそういう奴もいるんだろうね。もし、そういう奴が俺の視界に入ったら、俺は視線を逸らす。

精神衛生の問題じゃない。畏怖も敬意もない。

ただ、そういう奴は「普通の人」だから。職場にいるバイト仲間かもしれないから。

俺は職場以外でそいつの私生活に、興味を持てない。


 

EPISODE9


 バイトが終わって家に戻る。飯を食ってると親父が

「ジェイサンズが10連敗してるのはヤベツネが死んだからだ。野球連盟は隠してる。今年はどの球団も勝ちたくないんだ」

と意味の分からないことを言ってる。

親父が野球の話を始めると、どこからでも始動する必殺コンボのように

「元々タコパ州には3つの球団があったが、50年経ったら皆消えちまった」

「西で残ってるのはタイグリスだけになって、タコパの奴等も応援してるが俺からすればにわかファンだ」

と話が展開されていく(めんどくせ~)。

ただ、こういうタイミングで連盟だのファンだのの話をされると

(あの気持ち悪い音楽界隈の利権を握ろうとしてる大本営は、わざと流行に流されやすい餓鬼向けの頭悪いノリの発信してて上手いんだよな~)

とか

(まあ流行界隈を長く維持していこうと思ったら常に新規の餓鬼を入れてかないとダメだし、これからも【ネタ曲】は推されるだろうな。もっと歴史が長くて古参と新参が共存してる界隈ってどう自治してんだろ?)

とか本当にしょーもないことばっかり思い浮かんできたので、そろそろあの争いを眺めるのもやめようかなと思ってきた。

 


 

EPISODE10


数日経ち、選挙の日になった。

俺が仕事以外で何かに参加する数少ない日の一つで、俺が大好きな怨嗟の声が国中で聞ける一大イベンドだ。

投票所を出た後、ふとあの『民主主義が機能していないにもかかわらず賞レースをやってる気持ち悪い音楽の界隈』を思い出してしまう。

まあ、あの界隈も『現状に対する失望』で埋まっていったら、この国の民主主義と同じような感じに落ち着くだろうね。

 

……いい加減下らないことを考えてる俺にイライラしてきた。

 


 

EPISODE11


選挙は予想通りの結果に終わり、更に一ヶ月が経った。

俺は何の意味も無く、終わった音楽祭のHPからランキング結果を眺めている。

無意味を悟りながらも、虚無の時間を流し続ける。

午前零時、眠たくなった頭でこう呟くんだ。

 

 

 

 

 

「こいつらの人生、どうなるんやろな」